財産分与

婚姻中に夫婦の一方の名義で取得した財産でも、夫婦の一方が贈与や相続で取得した財産でないかぎり、実質的には夫婦が共同で取得した財産であると評価できます。たとえ、夫が働いて、妻は専業主婦だったという場合でも、妻の内助の功があって夫は外で働くことができたといえるので、妻にも潜在的な持分があるということになり、離婚に際しては、この持分については妻に財産分与するということになります。
財産分与も離婚の際に夫婦の協議で決定できればどのように決めても自由ですが、協議が調わない場合には、離婚後2年以内に家庭裁判所に対して協議に代わる処分(調停、審判)を申し立てなければなりません。また、離婚調停を行った場合は、同時に財産分与の調停を申し立てることもできます。
家庭裁判所が判断する場合、夫婦が協力して取得した財産の額その他一切の事情を考慮して財産分与をすべきか否か、その額はいくらかを決定します。財産分与において一切の事情を考慮するのは、生活手段のない当事者の離婚後の扶養の確保という性格が財産分与にはあるからだとされています。もし、一度に財産分与の支払いができない場合などは、毎月数万円ずつ支払うということもあります。
参考として、財産分与の算定基準と対象となる財産の範囲等を挙げておきます。

算定基準

清算的財産分与

財産分与をする場合に、夫婦の一方の寄与度を考慮します。寄与度は財産の形成・維持過程の各当事者の協力の態様及び程度を総合的に考慮して定めますが、寄与の程度が異なることが明らかでないときは、等しいものとする裁判例が多いといえます。寄与度に格差を認める例は、夫婦の一方に特別な能力専門的知識努力がある場合、財産形成に係る貢献度に明白な差があると容易に判断できる場合などです。

【寄与度を平等とした例】

共稼ぎ型

  • 同居期間9年間。当初3年間の夫婦の収入は大差なく、その後妻の収入が減少したのは、長女の出産、育児によるもの。妻が勤務しながら家事、育児に専心したことを評価して妻の寄与度は5割を下らないと判断した。(広島高決昭55・7・7)
  • 同居期間約22年間。夫は会社員、妻は子育てをしながらパート勤務。夫婦の資産として、マンション、ホテル(部屋)、ゴルフ会員権その他があり、これらの購入資金として借入金がある事例。債務負担も含め寄与度を平等と判断した。(東京地判平11・9・3)

家業従事型

  • 夫の実家の家業である畜産業に夫婦ともに従事し、賃金を得ていなかった事例で、夫の父名義で形成した財産につき、夫婦の労働による寄与分を賃金センサスにより推計し、この合算額から夫に父が負担した生活費を控除した残額につき寄与度を平等とした。(熊本地八代支判昭52・7・5)
  • 同居期間24年間。妻は家事、育児(子4人)をしながら家業の自動車修理業の経理を担当したもので、同族会社名義の資産も含め、寄与度を平等とした。(広島高岡山支平16・6・18)

専業主婦型

  • 同居期間約27年。妻は専業主婦(子2人)で、夫婦財産の形成過程や資金支出の状況を検討した上、寄与度を平等とした。(東京高判平8・12・25)


【寄与度を修正した例】

  • 夫が画家、妻が作家。各自が自らの資産を管理、生活費はそれぞれ拠出、家事労働は専ら妻が約18年間従事した事例。寄与度を妻6割、夫4割と認めた。(東京家審平6・5・31)


扶養的財産分与

清算的財産分与、慰謝料を考慮してもなお離婚後の生活が困難である場合に、実務では生計を維持できる程度の額を自活するために必要な期間を基準として、具体的事情により決定しています。当事者それぞれに考慮される点は以下のとおりです。

財産分与請求者

  1. 要扶養状態にあること
  2. 請求者の年齢、健康状態、再就職や再婚の可能性、資産、債務
  3. 親族の援助の可能性、子の有無、監護状況

被請求者

  1. 扶養能力があること
  2. 相手方の所得能力、資産、債務
  3. 有責性(分与請求者が離婚について有責である場合は、扶養的財産分与を認めないか、制限する傾向にあります。)

扶養の程度及び期間、方法

扶養の程度及び期間、方法については、要扶養性及び相手方の扶養能力、婚姻期間などの具体的事情を考慮して個別に判断されます。

  • 妻が精神病の事例。夫に月2万円を妻の死亡まで分与するよう命じた。(札幌地判昭44・7・14)
  • 妻61歳、十二指腸潰瘍、甲状腺機能低下症の事例。清算的財産分与、扶養的財産分与を包括して1300万円の分与えお認めた。(東京高判昭57・2・16)
  • 妻・喘息など病気がちで無職の事例。清算的財産分与1170万円、扶養的財産分与150万円の分与を認めた。(東京地判昭60・3・19)
  • 妻75歳、専業主婦の事例。1200万円の分与を認めた。(東京高判昭63・6.7)
  • 妻73歳、専業主婦、無資産、夫は有責配偶者の事例。慰謝料1500万円のほか扶養的財産分与1000万円、を認めた。(東京高判平元・11・22)
  • 専業主婦、子を養育しながら将来の自活のために通信教育を受けている事例。月額3万円を自活し得るまで3年間分認めた。(東京高判昭47・11・30)


慰謝料と財産分与の関係

財産分与と別に慰謝料を求めている場合は別として、財産分与の中で慰謝料的要素の考慮を求めることもできます。慰謝料として認められた額の傾向として、東京地裁の昭和55年から平成元年までの離婚判決での慰謝料平均値は190万円、中央値は200万円、最多件数は200万円以上300万円未満の幅内。また、平成元年から平成12年までに判例時報および判例タイムズに掲載された慰謝料請求認容判決では、最高額1500万円、最低額は100万円、平均値は370万円、最多件数は200万円であり、認められる額は低額で固定されていて、高額の慰謝料というのはあまりないというのが現状のようです。
財産分与は財産がたくさんあれば高額になることもあります。有名人の離婚の場合などに慰謝料が高額であることが報道されますが、財産分与の中で慰謝料的要素の考慮がなされた例とみることができます。相手が有責で、許せないから、巨額の慰謝料を支払わせよう!というのも分からないでもないですが、上記のとおり最高でも1500万円ですので、一般的な財産・収入の場合、あまりに高額な慰謝料というのは現実的でないということを知っておいてください。
(調停、審判、裁判に拠らず、協議離婚で、双方納得の上、高額の慰謝料、財産分与を決めることは可能です。)

財産分与の対象となる財産の範囲

清算的財産分与の対象となる財産は、基準時に存在する夫婦共有財産です。
基準時とは、協議離婚のときは離婚時、裁判離婚のときは口頭弁論終結時ですが、夫婦の協力関係が要件なので、別居が離婚時や口頭弁論終結時より以前であるときは、別居時が基準時となります。つまり、別居後に財産が増加しても、その増加部分については財産分与の請求ができないということになります。

Ⅰ.財産の種類

婚姻中の夫婦の財産は、次の3種があります。

特有財産
(固有財産)
婚姻前から保有する財産。婚姻中それぞれが贈与、相続等で取得したもの。
また、装身具など各自専用のもの。
共有財産夫婦共有名義で取得した財産。婚姻中に取得した家財道具など。
実質的共有財産一方の名義でも実質的には夫婦共有とみなすべき財産。

このうち、特有財産(固有財産)を除く他の財産が財産分与の対象となります。特有財産(固有財産)についても、その維持に努め、減少を防いだなど特別な事情があれば財産分与の対象となることもあります。

Ⅱ.財産の名義

財産分与の対象となる財産は、原則として夫婦の一方又は双方の名義のものになります。ただし、第三者名義であっても、財産形成過程、財産に対する支配の有無など実質的共有財産と認められる場合もあります。

Ⅲ.将来の退職金、年金

近い将来支給される蓋然性がある退職金は財産分与の対象になるとする裁判例が多いですが、退職の時期、企業の存続、経営状態など不確定要素が多い場合は、清算的財産分与の対象とするのは困難です。年金は、年金制度改革関連法が成立し、平成19年4月1日から離婚年金分割制度が始まっています。夫婦間で年金分割について合意ができないときは、家庭裁判所が定めることになります。

Ⅳ.負債

一般的には、清算的財産分与の対象財産は夫婦が婚姻中に形成した積極財産とされています。しかし、住宅ローンのように夫婦の財産形成に伴う債務については、清算にあたり財産から控除するのが相当です。