慰謝料
慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償です。不貞など離婚原因を作った夫婦の一方から他方に支払われる賠償金であり、夫から妻に支払われると決まっているというものではありません。お互いが対等な立場で話し合い納得して、婚姻関係を解消しそれぞれが新しい人生を歩もうというような協議離婚で、どちらが有責(離婚の原因を作った責任がある)か問題にならない場合には、慰謝料はなしということでもかまいません。
しかし、協議離婚(夫婦の話し合いで離婚)をするときでも、どちらかが有責である、または双方有責性があるがその一方の有責性が他方を上回るという場合は、有責配偶者(有責性が他方を上回る配偶者)に対して、慰謝料を支払うよう請求することができます。離婚協議の中で、一方がその責任を認め、支払う慰謝料が話し合いで定まれば、その金額を協議書に記載すればよいですが、お互いの主張が食い違って協議がまとまらない場合は、調停、訴訟ということになります。参考までに慰謝料算定要素、算定基準及び慰謝料が認められた事例をあげておきます。
算定要素
- 不貞、暴力、悪意の遺棄等の個々の離婚原因たる有責行為の存在及びその態様や程度、婚姻関係破綻に対する責任の存否、大小等
- 当事者の性別、年齢、婚姻期間、同居・別居の期間、婚姻費用等の負担状況、職業、離婚により受ける経済的不利益、婚外子の出生や認知の有無、再婚可能性等
算定基準
- 慰謝料算定の基準化の必要性は以前から言われていることですが、離婚に至る経緯は個々のケースにより様々であり、慰謝料に影響を及ぼす要因や要因相互の関係が複雑であるため、実務上定着が見られる算定基準はありません。しかし、慰謝料として認められた額の傾向として、東京地裁の昭和55年から平成元年までの離婚判決での慰謝料平均値は190万円、中央値は200万円、最多件数は200万円以上300万円未満の幅内ということです。また、平成元年から平成12年までに判例時報および判例タイムズに掲載された慰謝料請求認容判決では、最高額1500万円、最低額は100万円、平均値は370万円、最多件数は200万円であり、認められる額は低額で固定されていると報告されています。
慰謝料が認められた事例
有責行為として不貞や暴力等が認定された最近の事例
- 長年にわたり不貞及び悪意の遺棄を継続した有責配偶者である夫からの離婚請求を認容し、併せて、妻からの慰謝料請求につき、1500万円の慰謝料を認容した事例(東京高判平元・11・22)
- 夫が妻に度重なる暴行を加え、肋骨骨折の傷害を負わせたとして、夫に慰謝料400万円の支払を命じた事例(東京高判平10・2・26)
- 夫が不貞をした上、不貞をやめるよう頼んだ妻に対し暴行を加えて傷害を負わせたとして、夫に500万円の、不貞の相手方女性に300万円の慰謝料支払をそれぞれ命じた事例(仙台地判平13・3・22)
婚姻関係の破綻につき当事者の一方に有責性を認め、あるいは他方を上回る有責性を認めた最近の事例
- 夫が性的交渉を持たなかったことやその後の話合いで善処しなかったことにより婚姻関係が破綻したとして、夫に500万円の慰謝料支払を命じた事例(京都地判平2・6・14)
- 婚姻期間途中から生活費を負担せず、妻に暴力等を繰り返した夫にも婚姻関係の破綻について相当の責任があるが、妻が第三者と不貞に及んだことが破綻を決定的なものとしたとして、妻に200万円の慰謝料支払を命じた事例(東京高判平3・7・16)
- 妻が夫に相談なく長男を実家の養子にする話を進め、他方で、夫は二男の医療費がかかりすぎることを不満として妻に生活費を一部しか渡さなくなったとして、婚姻関係の破綻については双方に責任があるが、夫の責任の方がより大きいとして、夫に慰謝料200万円の支払を命じた事例(東京地判平9・6・24)
慰謝料を認めたその他の参考事例
- 夫が妻と姑らとの不和を円満に解決する努力をしないことにより、婚姻関係が破綻したとして夫に慰謝料10万円の支払を命じた事例(名古屋地岡崎支判昭43・1・29)
- 妻が、その父の死に夫が関与しているなどと非難したり、夫に無断で、協議離婚の届出をしたり、夫名義の不動産の登記名義を妻等に変更するなどしたもので、婚姻関係の破綻については妻に責任があるといえるが、妻の一連の言動のうちには判断制御能力が減退した状態にあったことに起因するところも少なくないと推認されることを斟酌して、慰謝義務の具体的な内容について、夫のために慰謝料の性質を有する財産分与を認めるのが相当であるとした事例(東京高判平8・12・25)